海外渡航社員の健康管理
先日、クライアント企業さんにおいて、海外渡航する社員さんの対応をまとめたので、こちらでポイントを公開します。
*健康診断
派遣前の健康診断は労働安全衛生規則45条2に定める項目に準拠して行います。本法では、業務形態(駐在、出向、出張)にかかわらず、海外に6ヶ月以上滞在する者への健康診断の実施を事業主に義務付けています。健康診断の結果は英訳し、現地医療機関を受診する際に持参するよう指導します。
(以下は推奨)
悪性腫瘍の早期発見のため人間ドック的な項目
歯科健診
家族の健診
*携帯医薬品〜渡航前に自分用薬箱を作ろう〜
海外の薬局で市販されている薬剤は、含有量が多かったり、偽薬が流通していることもあり、体調が悪い状態で自分に合った薬を探すことは非常にハードルが高くなります。感冒や下痢など頻度の高い疾病に関しては、日本から使い慣れた薬剤を携帯することを推奨します。
*感染症
途上国では衛生環境が悪く、感染症が大きな健康問題になります。この中でも飲食物から経口感染する旅行者下痢症やA型肝炎の頻度が高く,旅行者下痢症については途上国に1ヶ月滞在した場合、半分近くの人が罹患するとされています。
蚊に伝播されるデング熱やマラリアも,地域によっては注意を要します。デング熱は近年、東南アジアや中南米で大流行が発生しており、日本人の感染例も数多く報告されています。マラリアの流行は、アジアや中南米では特定の地域に限定されており、日本人の活動範囲での感染リスクは低くなっていますが、熱帯アフリカでは都市部を含む国内全域に流行がみられます。
性行為で感染する梅毒、尿道炎、B型肝炎などの疾患は、現地での行動パターンによりリスクが高くなります。さらに途上国の一部の医療機関では、注射器具の再利用が行われており、院内感染としてB型肝炎やHIV感染症に罹患するケースもあります。
<e-lerning>
デング熱 http://www.tra-dis.org/dengue/index.html デング熱自己診断ツール http://www.tra-dis.org/tool/index.html
ジカウイルス http://www.tra-dis.org/zika/index.html
旅行者下痢症 http://www.tra-dis.org/diarrhea/index.html
マラリア http://www.tra-dis.org/malaria/index.html
狂犬病 http://www.tra-dis.org/rabies/index.html
*赴任前のワクチン
複数回に分けて接種が必要なものが多いのですが、1回だけ受けて渡航になり、2回目以降を受けずに海外に滞在されている方が非常に多いです!2回目以降を忘れた場合、接種時期がすぎると1回目から打ち直しになりますので、渡航前に、次回接種がいつか、どこで行うかを人事から確認することがとても大切です。
詳細はこちらを参照 http://www.tra-vac.org/qanda/index.html
*生活習慣病
生活習慣病の罹患は,先進国,途上国にかかわらず頻度の高いものです。これは,海外での食事が一般に高カロリー,高脂肪であることや,海外での生活が車社会であるため,運動不足に陥ってしまうことに由来します。私が上海の駐在員の健康診断クリニックで働いていた際、駐在員が駐在後、平均で約3キログラム体重が増加されていました。
さらに近年は海外勤務者が高齢化しているため,すでに生活習慣病を発症している者も数多くみられます。こうした事例では海外での生活習慣が病状の悪化を招くだけでなく、治療中のケースでは,日本のように気軽に病院に受診できない(受診先が少なかったり、医療保険の問題などがあり)その中断によりコントロールが不良となることも少なくありません。
*継続医療の指導
慢性疾患のある派遣者については滞在先で継続医療を受けるための準備が必要です。受診する医療機関の検索には、会社の契約がある場合にはアシスタンスサービス(ウェルビーなど)を利用していただくことが一般的です。それらがない場合には最初から専門医を探すのではなく、現地のホームドクターをまず受診し、そこから紹介してもらう方法をお奨めします。現地の医療機関の情報は、表1の「外務省渡航関連情報HP」や「海外邦人医療基金HP」に詳しく記載されています。紹介状は英語のものを準備すれば概ね対応可能です。この紹介状には病名とともに服薬中の薬剤を一般名で記載します。
*メンタルの相談窓口の設定
海外赴任中にメンタルの相談をしたい場合、現地に日本語で相談できる先があることは非常に稀です。よって、赴任中も、日本の産業医や保健師、カウンセラーへ電話やインターネット通話などを通して窓口を用意しておくことが推奨されます。
*医療保険
日本の健康保険制度に慣れている日本人にとって、海外での医療費はとんでもなく高額に思えます。海外で医療費を10割負担する場合ですと、例えば風邪を疑う発熱で受診し、簡単な検査と投薬を受けるだけで医療費が1万円を越すことは一般的です。海外で安心して医療を受けるためには、医療保険への加入が欠かせないものです。先進国では現地の公営ないしは民営保険、途上国では海外旅行保険で支払うのが一般的な方法です。また、日本の健康保険(組合管掌保険や国民保険)には「海外療養費制度」があり、この制度を使うと海外で支払った医療費の一部を還付してくれます。
なお、海外出張者が滞在先で医療機関を受診する際には、海外旅行保険のアシスタンスサービスを利用する方法が推奨されています。このサービスは保険会社が提携する病院の紹介を受けるもので、提携病院の中には、保険加入者にキャッシュレスサービスを提供する施設もあります。ただし、この方法を利用するためには、海外旅行保険への加入が前提です。
*海外での長期滞在を経て帰国した後には労働安全衛生規則45条2に準拠した健康診断を実施
*その他関連サイト
厚生労働省検疫所 http://www.forth.go.jp 海外感染症流行情報、推奨予防接種情報、国内のトラベルクリニック情報
外務省海外安全ホームページ http://www.anzen.mofa.go.jp 海外感染症流行情報のほか、安全対策など
日本小児科学会 http://jpaic.net 国別の小児予防接種情報
参考:東京産業保健総合支援センター